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2025年03月12日配信

どっちがいいの?『石けんと合成洗剤』の秘密 | 第838号

☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2025/03/11━☆
    健康な素肌を取り戻すために知ってほしいこと

           「秘密の皮膚科学」

    第838号 発行者:シニアフェロー 牛田専一郎
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 みなさん、こんにちは。
 シニアフェローの牛田専一郎です。


 前号では洗濯洗剤業界の意見や主張、
 界面活性剤の歴史を見てきました。


 「結局石けんと合成洗剤はどちらが
  いいのか疑問が残っています」


 そうですね、今日は続きをお話しましょう。 

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            どっちがいいの?

      『石けんと合成洗剤』の秘密 ~その2~

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 ▼そもそも「合成」洗剤って?


 「合成洗剤っていう響きが
  肌や環境に悪そうですよね」


 そうですね、白木さん。
 人工的なものが「合成」という意味だとすると、
 石けんも合成界面活性剤です。

 石けんは油脂を水酸化ナトリウムや水酸化カリウムと
 反応させて作られる、脂肪酸ナトリウムまたは脂肪酸カリウムです。
 天然物として自然界に存在しているわけではありません。


 「どうして石けんは『合成洗剤』ではないのでしょうか」


 家庭用品品質表示方では
 「石けん」と「合成洗剤」に品名が区別されているため、
 消費者が誤認しやすい原因になっているようです。

 ずいぶん前にメルマガでもお話しましたね↓
 ☆第82号 お肌にやさしい?『石けん』の秘密
  https://hisesshoku-derm.com/archives/2006/07/82.php


 「う~ん......。
  石油系界面活性剤を『合成』と呼ぶことも
  ありますよね」


 ええ。
 だから『合成』でない植物油脂由来の界面活性剤は
 肌や環境にやさしい、という主張ですね。

 石油系と聞くとあまり良くないイメージを
 持つ方も多いかもしれません。

 ですが、石油は昔生息していたプランクトンや
 藻類の死骸が、微生物や地熱の作用によって
 有機物に変化し、化学反応が進んで液状になったもの。

 こちらもれっきとした天然資源なのです。


 「『合成』も『石油系』もイメージによる
  印象が強いんですね」


 そうですね、白木さん。





 ▼環境に良いのは?


 「でも界面活性剤の生分解性を比較したグラフを
  見かけますが、石けんが一番分解性が
  高くなっていますよね?」


 はい。
 石けんメーカーのサイトでよく見かけるグラフですね。

 実際石けんの環境負荷が一番小さく見えます。
 ただし、このグラフはすべての界面活性剤を同じ量で
 比較した場合です。


 「というと?」


 一般的なAE系の洗濯洗剤と石けん洗剤の
 1回の使用量を比較してみましょう。

 * ------------ * ------------ *

 ◇AE系洗濯洗剤(界面活性剤21%配合)水30Lに対して25mL
 ◇石けん洗剤(純石けん分30%配合)水30Lに対して50mL

 それぞれの1回の含有量を計算すると......

 ◇AE系界面活性剤分 5.25mL
 ◇石けん分 15mL

 * ------------ * ------------ *

 1回洗濯時の含有量が3倍近く異なるのですね。

 これをグラフに当てはめると、石けんの環境負荷が
 その他の界面活性剤より少ないとは言えなくなります。


 「なるほど!単純にグラフを見ただけでは
  わからないんですね」


 その通りです、白木さん。
 また、石けんは「1日で分解する」という情報もありますが。

 これは生分解試験の過程で、ステアリン酸ナトリウムが
 金属石けんに変化し、前処理で試験用の試料から
 取り除かれてしまうため、あたかも分解されたかのような
 結果になっているようです。


 「金属石けん分は試験に入っていないからですね」


 はい。

 また、今は洗剤による河川の汚染が起きた時代と異なり、
 下水処理が行われています。AEは下水処理場で
 99.9%除去されているというデータもあります。


 「どちらがいいかは一概には言えないということですね」


 そうですね、白木さん。

 本当に環境への影響を考えるなら原料採取から
 製造、使用、廃棄までのトータルなエネルギー消費や
 負荷までを検討する必要がありますね。


 参考:大矢勝「石けんとLASの生分解性に関する
        誤情報の流通過程の分析」





 ▼今も昔も情報空間は玉石混淆


 洗濯洗剤の市場調査と情報分析をしてきましたが、
 どちらも環境にいいとは言えないのが前提ですね。

 肌への影響で言えば、遊離脂肪酸の刺激性、
 細胞毒性の情報が検索できなくなっていることが
 気になりました。

 肌が弱い人は、洗濯物に遊離脂肪酸の残留しない
 洗濯洗剤を選んでくださいね。


 「牛田さん、それでどっちがいいんですか。
  判定はしないんですか」


 はい。

 調べて欲しいという事がありましたら
 お気軽にご連絡くださいませ。



 ☆ご相談・ご質問など、お気軽にどうぞ
   https://jstcd.or.jp/contact/


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