メールマガジン「秘密の皮膚科学」

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2008年12月12日配信

第175号 お酢でさっぱり?『酢シャンの効用』の秘密

 みなさん、こんにちは。
 コスメプロデューサーの牛田専一郎です。

 前回は『プールの塩素にはなぜ刺激を感じやすいのか?』
 という"秘密"を検証しました。
 http://hisesshoku-derm.com/archives/2008/12/174.php


 硬水と軟水、水道水の硬度、水道水の塩素、プールの塩素......
 と、ここのところ『お水』の話題が続いていますが。

 今回取り上げるのは、
 ときどき、こんな問い合わせをいただく【酢シャンプー】です。


  "小麦シャンプーが乾燥するため、酢シャンを始めました。
   界面活性剤はないと思うのですが、
   酢シャンについてはどう思われますか?"



 どうやら、お酢やクエン酸などの酸を利用して
 洗髪をする方法が流行しているようですが......

 牛田のお返事は"いつもと同じ"です。



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          ―― お酢でさっぱり? ――

          『酢シャンの効用』の秘密

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 ▼白木さんも気になる『酢シャン』


 「牛田さん! 【酢シャンプー】について
  読者さんから質問がいくつも届いていますよ。
  私も最近、気になっていたんです!」


 ふむふむ、3通ですね。
 では順にお答えしていきましょう。



 ┌――┐
 |\/|【お酢シャンの疑問1】―― 酢シャンはよくない?
 └――――――――――――――――――――――――――――――
 |
 | お酢でシャンプーってよくないのでしょうか?
 | 正確にはお湯にお酢を少量入れて、そのお湯で洗髪
 | (マッサージするように)しています。
 | 
 | 頭皮の皮脂が程よく取れてサラサラになってとてもいいのです。
 | 逆に、お酢洗髪しないと2~3日で髪がもっさり、
 | ゴワゴワ、しっとり(皮脂で)して、
 | 手で触ると手に皮脂がついてる感じがして気持ち悪くなります。
 | 
 | 小麦粉シャンプーもよいのですが、仕上がり感、お手軽感は
 | お酢シャンの方が好きでした。
 | 
 | 牛田様は一言もお酢の話をされていないので
 | 良くないのかな......と
 | 思いつつ、気になっていたので宜しくお願いします。
 | 
 |                   (30代・福岡県・女性)
 | 
 └――――――――――――――――――――――――――――――


 《牛田のお返事・その1》

  お酢の酸は"酢酸"です。
  調理に疎い牛田はお酢を買ったことも無いのですが
  そのpHが2.5~3.5くらいと意外に強酸であることを
  お酢のメールをいただいて知ることになりました。

  お酢は酢酸の酸と、うま味成分からできているようですが、
  頭皮や髪のよごれである脂分と
  剥離した角質(タンパク質)の洗浄に、
  いったいどう役立っているのか......疑問があります。

  はっきり申し上げると、
  お酢でシャンプーをしても意味がない。
  というお返事になります。




 ┌――┐
 |\/|【お酢シャンの疑問2】―― シャンプー後お酢でリンス?
 └――――――――――――――――――――――――――――――
 |
 | 以前20日間ぐらい、がんばって湯シャンをしていましたが
 | 洗ってタオルドライして、くしを通すと汚れてしまうという感じで
 | 洗う前にブラッシングしてかなり流し、
 | 洗面器の中に頭を入れて......
 | という感じでしていたのですが、
 | もうそれだけで疲れてしまいました。
 | 
 | 今は週2度ほどシャンプーをしています
 | 髪が多く、かなり長いのでシャンプーのみでは
 | きしみとからみでどうしようもありません。
 | 
 | そこで、食酢スプーン1杯ほどを洗面器に入れ
 | お湯を洗面器いっぱいで薄めてすすいでいます。
 | 
 | "このやりかたで、シャンプーかすや頭皮も綺麗になる"
 | と書いてあるサイトを見かけましたが、
 | 実際のところ、どうなのでしょうか?
 | 
 |                   (40代・鹿児島県・女性)
 | 
 └――――――――――――――――――――――――――――――


 《牛田のお返事・その2》

  アルカリ性のシャンプーならば、
  酸で中和する効果は期待できるかもしれません。
  しかし、今の一般的なシャンプーは
  酸性水ですすぐことに意味は見出せないでしょう。

  すすぎにお酢を加えることで地肌がきれいになる、
  とは考えにくいですね。

  石けんシャンプー後に石けんカスを酸で中和する
  (金属石けんを脂肪酸にもどす)ために
  お酢が使われることもあるようです。

  何回もお話していますが、お肌の弱い人は
  アルカリや脂肪酸でお肌を傷めることがあります。
  石けんシャンプーは使わないでくださいね。




 ┌――┐
 |\/|【お酢シャンの疑問3】―― "ヌルッ"の正体は?
 └――――――――――――――――――――――――――――――
 |
 | ネットで湯シャンのことを調べると、酢やクエン酸で洗ったり、
 | リンスするという記述が見られます。
 | 
 | ためしに掃除用のクエン酸を洗面器に小さじ1杯溶かし、
 | 髪を入れたところ、ちょっとヌルッとして、
 | 湯のみより洗いやすく、指通りもよくなりました。
 | 
 | これは、どういう効果なのでしょう?
 | 今後も続けて問題なさそうでしょうか?
 |                   (30代・東京都・女性)
 | 
 └――――――――――――――――――――――――――――――


 《牛田のお返事・その3》

  ヌルッとしたのは、クエン酸の薄め方が充分でないため。
  強い酸(pH2 ~ 3)によって
  髪の毛のタンパク質が酸変性をおこしているからでしょう。


  ☆タンパク変性の秘密
   http://hisesshoku-derm.com/archives/2008/02/tanpaku-hensei.php


  髪の毛は爪と同じように伸び続けていますが、
  伸びた部分は死んだタンパク質ですから、
  傷めてしまうと修復できません。

  お肌や髪は"酸性には強くアルカリ性には弱い"
  という傾向がありますが、
  このくらいのpHだとお肌の弱い人には刺激になります。

  ヌルッとしないように、もっと希釈しましょう。

  でも、お肌に負担がないように薄めると、ただの弱酸性水です。
  そもそも、湯シャンは酸で中和する必要がありませんから
  意味がない行為になってしまいます。




 ▼調べてみました「沐浴&洗髪の歴史」


 読者さんからお問い合わせのメールをいただく中で、
 牛田も"酢シャン"について興味を持ち始めました。

 果たして、洗髪の歴史の中で
 酢は使われてきたのか......
 検証してみましょう。



 ◎入浴と化粧の起源

 洗髪や入浴の始まりは、
 古代原始宗教のけがれをはらう儀式としての水での沐浴。

 そして、化粧の始まりは
 原始宗教でけがれをはらう祭司が、呪術や祈祷を行なうときに
 顔や身体に紋様や色を付けたことに由来します。

 おそらく、この頃はまだ
 洗髪は行われていなかったでしょう。



 ◎平安時代:シャンプーは年1回?

 日本に仏教が伝来(500年代)して、
 沐浴にお湯を使うようになりました。

 お湯で「ふのり」や「むくろじ」などの植物を煮出して
 その液を使ったり、小豆粉や米のとぎ汁も髪の汚れを
 吸着させるために利用したようです。
 また、灰汁(あく)や木灰なども使われていたとか。

 平安時代には年に1回、七夕に髪を洗っていたようです。
 つまり、洗髪は年に1回の行事だったのですね。
 臭い対策には香を利用していたようです。



 ◎江戸時代:回数が増え、洗浄剤が用いられるように

 洗髪回数が増えるのは江戸時代。
 江戸の女性は月に1~2回髪を洗い、夏には何回も洗ったようです。

 「うどん粉」「ふのり」「粘土」「滑石」「緑豆」「油粕」
 「たまごの白身」などが使われました。
 髪に油も使いましたので「火山灰」や「灰汁」も使うようになりました。

 洗浄料として「灰」や「灰汁」が使われだしたのは、
 水に溶くとアルカリ性を示し、油性の汚れを落としやすいからです。

 生活の知恵から洗髪や洗濯にアルカリ剤を利用していたんですね。



 ◎明治から昭和へ:徐々に"洗いすぎ"に

 明治になると 国内で石けんが製造されます。
 だんだんと石けんも使われ始めました。

 それでも第二次世界大戦以前は、
 火山灰、かまどの灰や粘土、白土などを混ぜた
 「洗い粉」や「糠袋」が多く使われていました。

 昭和30年以前は、固形の石けんや髪洗い粉という粉石けんが
 ほとんどでした。洗髪の回数は週に1回くらいに増えています。

 昭和30年以後の洗髪用洗剤の進化はめざましいものがあります。
 以後洗髪の回数は週に2回になり、朝シャンがブームになり、
 毎日もしくは朝、晩の2回という行き過ぎた状態になりました。



 ◎歴史に"お酢"の文字は見当たらず

 現代に至る洗髪と洗髪に利用したものの歴史を振り返ると、
 その方法は、以下の2つに大別されます。
  ・汚れを吸着させて落とす方法
  ・油性の汚れをアルカリ剤の利用で落とす方法


 第二次世界大戦以前は、
 洋の東西を問わず大差はないようです。

 第二次世界大戦以後の洗髪剤の進化や洗髪事情も、
 地域別の風土や文化の差はあっても、
 世界中大差は無いと考えています。

 それは、使用原料の多くが世界共通に流通しているからです。


 このように、ざっと洗髪の歴史をふりかえってみましたが
 「酸やお酢を使った」という事例は見当たりませんでした。



 ◎お酢について、文字として残っているもの

 紀元前5000年のバビロニアの記録がもっとも古いようです。
 日本の記録は「万葉集」に、4~5世紀ごろ。
 日本で一般に広まったのは、江戸時代のようです。

 同じく世界中でこの頃には誰の手にも入ったでしょう。
 酢は世界中で最も古い調味料のひとつだそうです。




 ▼果たして、お酢シャンプーに効用はあるのか?

 お酢という調味料が一般に広まって以後数百年間に、
 お手軽な酢で洗髪にチャレンジした人は
 少なからずいたのかもしれません。

 そこで、何か情報がないか調べてみましたが、
 残念ながら、お手軽な酢を洗髪に利用する......
 という情報は英語圏では見つかりませんでした。

 つまり、"お酢でシャンプーをする文化はない"
 と言えそうです。

 一般的認識として、
 酢を中和剤以外で洗髪に利用する有用性はない。
 と考えるのが正しいでしょう。




 ▼スタッフにも試してもらいました

 理屈であれこれ言うだけでなく
 実際に試してみなくては。

 というわけで、
 湯シャンをしているスタッフ数名に実験をしてもらいました。
 りんごとかレモンの香りが良さそうなお酢を使って。



 「結果は、どうだったんですか?」



 これまた残念ながら......
 【湯シャンと変わらない】という結果でした。


 薄まったうま味成分と、
 酢酸の入った弱酸性のお湯で洗髪するだけですから
 お湯と大差ないのは当然かもしれません。

 口に入れることができる身体に良い食品を、
 お肌や髪につけても意味がないということは、
 読者のみなさんがご存知の通りです。


 それにしても、
 お酢を使うと湯シャンよりさっぱりする、
 というお便りが数多く寄せられているのが気になります。

 なにか、牛田が見出せていない化学的な根拠があるのか。
 はたまた、思い込みやプラシーボ効果なのか......。

 牛田も追い続けたいと思います。



 ★牛田への感想・コメントがありましたら、
  お気軽にどうぞこちらへ。
  http://hisesshoku-derm.com/archives/01about/info.php




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