メールマガジン「秘密の皮膚科学」

メールマガジン「秘密の皮膚科学」

2008年12月02日配信

第174号 プールの刺激は塩素のせい?『結合塩素』の秘密

 みなさん、こんにちは。
 コスメプロデューサーの牛田専一郎です。


 前回は『塩素』の秘密をお話しました。

  ☆水道水はお肌に障る?『塩素』の秘密
   http://hisesshoku-derm.com/archives/2008/11/173.php
 

 読者のみなさん、水道水を飲んでみましたか?


 塩素の刺激を感じましたか?
 また、匂いはどうでしたか?



 「私はぜんっぜん気になりませんでした。
  久しぶりに水道水を飲んだけど、美味しかったですよ~!」



 白木さんと同じ意見の方が多いのではないでしょうか?


 ちなみに、水道法の水質基準51項目が適用されるのは"水道管"まで。
 集合住宅の貯水槽に水道法は及びませんので、
 それだけはお忘れなく......。


☆------------------------------------------------------------☆

        ―― プールの刺激は塩素のせい? ――

           『結合塩素』の秘密

☆------------------------------------------------------------☆


 ▼前回の続き ~どうしてプールの塩素は気になるの?~


 前回もお話したとおり、
 水道水の塩素濃度は0.1mg/L以上1mg/L以下くらい。
 プールの塩素濃度は0.4mg/L以上1mg/L以下くらいです。


 塩素の濃度は水道水とほぼ同程度なのに、
 なぜプールでは塩素の刺激を感じやすいのか?

 ......これが前回の「宿題」でした。
 http://hisesshoku-derm.com/archives/2008/11/173.php




 ▼刺激の正体は「クロラミン」


 プールには多くの人が入ります。
 汗や体の汚れが水中に溶けて生じたアンモニア性窒素と
 塩素が反応すると......

 【結合塩素(クロラミン)】という物質が生成されます。


 クロラミンは皮膚、目、呼吸における刺激や痛みとともに、
 不快な臭いのもととなります。


 クロラミンには
 「モノクロラミン」「ジクロラミン」「トリクロラミン」
 の3種があります。

 そのうち、
 ジクロラミンとトリクロラミンが以下の刺激を起こします。

  ・目の赤み、ひりひり感
  ・鼻、のど、肺のひりひり感
  ・肌のかゆみ、乾燥、髪のぱさつき


 「モノクロラミン」「ジクロラミン」「トリクロラミン」、
 いずれのクロラミンを生ずるかはpHと関係があり、
 低いpHにおいてはトリクロラミン、ジクロラミンが生成し、
 pHが7以上ではモノクロラミンが多くなります。




 ▼プール特有の刺激が生まれるメカニズム


 「あのプール特有の刺激や臭いを作り出しているのは
  結合塩素だったんですね!
  てっきり、塩素そのもののせいだと思っていました」


 ええ。
 そう誤解している方が多いかもしれませんね。


 混雑している時間帯や、
 子供のスイミングスクールが行われた後のプールでは、

   (1)汗や体の汚れでアンモニア性窒素の量が増える
             ↓
   (2)クロラミンが生成される
             ↓
   (3)塩素濃度が下がる


 ......という現象が起きています。


 その際にpHが低いと
 ジクロラミンとトリクロラミンが生成され、
 より強い刺激を感じることになる、というわけです。


 (※訂正)
   以前のメルマガで"塩素濃度が低いときを選んで泳ぐ"
   というお話をしましたが、これは誤りでした。
   申し訳ありません。
   http://hisesshoku-derm.com/archives/2007/02/96.php




 「結合塩素といえば、一時期、水道水に含まれている
  トリハロメタンの発がん性が騒がれていましたよね?」



 最も毒性が強いとされていた、
 クロロホルムの発がん性に関して
 膨大な研究が行われました。

 最近の研究結果によると、
 水道水のトリハロメタンのリスクは無視できるようです。

 ◇水道水中クロロホルム濃度の規制値の変遷(中西準子先生)
  雑感449-2008.10.20
 




 ▼pHと生成されるクロラミンの関係


 いくつかの生成pHの報告をみつけましたので紹介します。
 プールや水道水など、実験の条件はそれぞれ異なります。


 ---[報告1]-------------------------------------------------

  NHCl2 + HOCl > NCl3 + H2O  pH < 5 = トリクロラミンが発生
                      (以下「トリ」)

  NH2Cl + HOCl > NHCl2 + H2O  pH = 5-6 = ジクロラミンが発生
                      (以下「ジ」)

  NH3 + HOCl  > NH2Cl + H2O  pH = 6-8 = モノクロラミンが発生
                      (以下「モノ」)

 ---[報告2]-------------------------------------------------

  pH<4.4   → 「トリ」

  4.4<pH<7  → 「ジ」

  7<pH<11  → 「モノ」


 ---[報告3]-------------------------------------------------

  pH<4.4   → 「トリ」のみ

  4.4<pH<5  → 「ジ」のみ

  5<pH<8   → 「モノ」と「ジ」

  pH=7    → 「モノ」≒「ジ」

  pH>8    → 「モノ」のみ

 --------------------------------------------------------------


 プールの場合は濾過や浄化が行なわれているため、
 アンモニア性窒素の量や塩素濃度など条件が常に変化しています。
 そのため、数値は一律ではないと思われます。


 ◇遊泳用プールの水質基準
  http://hisesshoku-derm.com/archives/2008/12/pool.php


 水素イオン濃度は(pH)5.8以上8.6以下と幅はありますが、
 pHが7前後に調整されていれば、
 刺激物質「トリ」「ジ」の生成が少ないと言えそうです。




 ▼クロラミンは怖い物質?


 観賞魚などを飼育している方は
 「モノクロラミン」をご存知ですよね?

  ◇参考資料 ~ウィキペディア(Wikipedia)「クロラミン」の項~
   http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%A9%E3%83%9F%E3%83%B3



 クロラミンには溶血作用があるため、
 魚に有毒であると言われています。
 しかし、「チオ硫酸ナトリウム」などの薬剤を入れれば
 除去することができます。

 また、クロラミンが混入した透析液を人工透析器に用いて
 患者が貧血をおこす事故が発生したことがありましたが、
 現在では、透析液中のクロラミン量を管理することで解決しています。

  クロラミンは消化器で分解されますので
 飲んでも無害です。

 「クロラミンは恐ろしい物質」
 というイメージがあるかもしれませんが
 すでに解決策は整っていると言えるのです。




 ▼プールでの刺激にも"解決策"があります


 ◇プールのクロラミンで目が痛む
  →ゴーグルをつけましょう

 ◇髪のきしみ、パサつきが気になる
  →水を通さないスイムキャップを被る


 ◇お肌のカサつき、刺激が気になる
  →入水前に、気になる部分に薄くワセリンをつける
   (お薦めはし難いのですが)
   http://hisesshoku-derm.com/archives/2007/02/96.php

   プールの水が汚れてしまうため、
   つける量を加減する必要がありますが、
   ワセリンをつけることによって、角質層の乱れた部分を
   保護することができます。
   http://hisesshoku-derm.com/archives/2007/06/102.php


 ◇クロラミンの刺激や臭いそのものが気になる
  →プールの利用時間を工夫する

   混んでいる時間帯や、子供のスイミングスクールの後は
   クロラミン量が多くなります。
   朝や休み明けなど、クロラミンの生成が少ない時間帯に
   利用するとよいでしょう。


 なお、プールに入る前には全身をよく洗ってくださいね。
 あなた自身が生成するクロラミンを少なくするためにも。

 プールの後は水道水でクロラミンを洗い流しましょう。
 石けんやシャンプーを使う必要はありません。




 ▼お肌の刺激はどう防ぐ?


 化粧品で皮膚トラブルを起こす人と起こさない人がいるように、
 プールの水に刺激を感じる人と感じない人がいます。

 読者のみなさんはお気づきですよね?

 そう。プールでお肌に刺激を感じるのは、
 お肌の弱い人、過敏な人です。

 プールで顔や身体に刺激を感じる人は、
 お肌を傷めるものに接触している可能性があります。
 以下の8つを守りましょう。


         【肌を傷めない8つのポイント】

 現在8つの実践項目はリニューアルされています。
 8つの生活習慣はこちらからご確認ください↓
 http://hisesshoku-derm.com/contents/style/nanimo.php(2012.7.13)

 ┌――――――――――――――――――――――――――――――
 |
 |1)乳液、美容液、クリームなどしっとりするもの、
 |  界面活性剤を使って作られた化粧品を使わない
 |
 |2)日常生活では日焼け止めを使用しない
 |
 |3)ファンデーションは界面活性剤、シリコンの使われていない
 |  パウダータイプを、下地を使わずにお肌につける
 |
 |4)メイクをしたときは、クレンジングは部分的に使い、
 |  ファンデーションは洗浄力の弱い洗浄剤で落とす
 |
 |5)身体にボディーソープや石けんを使わない
 |
 |6)シャンプー・リンスの使用をせず、
 |  お湯洗髪や小麦粉シャンプーに挑戦する
 |
 |7)石けんや重曹などのアルカリ剤や、柔軟剤、蛍光増白剤の
 |  入った洗剤での洗濯をしない。
 |
 |8)クリーニングに出した衣類、消臭除菌スプレーなどのついた
 |  布地等が直接お肌に触れないようにする
 |
 └――――――――――――――――――――――――――――――

 寒くなってきましたが、
 冬用の寝具や衣類に柔軟剤が使われていないか、
 確認することもお忘れなく。

 まとめ買いした洗濯洗剤があっても、
 お肌に接触する衣類や寝具は
 すぐにリキッドトップに変えましょう。

  ☆オススメは? 『洗濯洗剤を追い求めて』の秘密
   http://hisesshoku-derm.com/archives/2008/10/169.php



 ▼最後にもう一度おさらいを。


 水道水とプールの残留塩素濃度はほぼ同じ。
 それなのに、プールでのみ刺激を感じやすいのは......



 「プールの中に人が入ることで、
  刺激物質であるクロラミンが生じていたから!」



 白木さん、正解です。
 塩素そのものではなく、結合塩素が刺激をもたらしていたのです。

 もっと泳ぎたいけれどプールの水がちょっと苦手、
 という方は、今回ご紹介した"解決策"を
 ぜひ参考にしてくださいね。



 ★牛田への感想・コメントがありましたら、
  お気軽にどうぞこちらへ。
  http://hisesshoku-derm.com/archives/01about/info.php




*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
   ☆メルマガ☆『秘密のプロジェクト』も好評配信中!
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 はげしく稼動中! 
  ...続きは『秘密のプロジェクト』をお読みくださいね。

メールマガジン「秘密の皮膚科学」

【次のエントリー】
 →第175号 お酢でさっぱり?『酢シャンの効用』の秘密

【前のエントリー】
 →第173号 水道水はお肌に障る?『塩素』の秘密

このページのTOPへ