メールマガジン「秘密の皮膚科学」

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2010年04月27日配信

第233号 14以上は?『脂肪酸と菌』の秘密

 みなさん、こんにちは。
 コスメプロデューサーの牛田専一郎です。



 前回は【脂肪酸】の炭素数をテーマにお届けしました。

  ☆第232号 満を持して?『脂肪酸と炭素数』の秘密
   http://hisesshoku-derm.com/archives/2010/04/232.php



 炭素数が少ないものほど......
 どうだったか覚えていますか? 白木さん。


 「炭素数が12以下のものには刺激性がある、
  というお話でしたね」


 ご名答! よく覚えていましたね。


 今回は、
  ◇炭素数が14以上の脂肪酸の特徴
  ◇皮膚常在菌が皮脂の分解過程でつくる脂肪酸

 についてお話します。

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            ── 14以上は? ──

            『脂肪酸と菌』の秘密

☆------------------------------------------------------------☆


 ▼「炭素数14以上」の脂肪酸


 炭素数12のラウリン酸までは刺激性がある──。
 前回取り上げたこのお話、
 実は化粧品業界では広く知られていることです。


 では、炭素数が14以上の脂肪酸はどうなのだろう?
 ふと疑問に思い調べてみると、
 ある意味で"なるほど"というデータが出てきました。


  +------------------------------------------------------------+

  ●有害物質データブックより

   N.Irving Sax/〔著〕 Richard J.Lewis,Sr./〔著〕
    藤原鎮男/監訳

   『ザックス有害物質デ-タブック』(丸善、初版、1990)
   129頁、38頁、446頁、595頁、643-644頁、648頁より

   ラウリン酸(C12)  ...動物実験により催新生物性を示す。
   ミリスチン酸(C14) ...ヒトの皮膚刺激剤である。
   パルミチン酸(C16) ...動物実験による催新生物性物質である。
               ヒトの皮膚の刺激物である。
   ステアリン酸(C18動物実験により発がん性を示す。
               ヒトの皮膚の刺激剤である。
   オレイン酸(C18:1) ...ヒトの皮膚の刺激物である。
                             動物実験により発がん性を示す。
   リノール酸(C18:2) ...対皮刺激物。


  +------------------------------------------------------------+

  ●神奈川県環境科学センター化学物質安全情報提供システムより

   ステアリン酸(C18)
動物実験により発がん性を示す。ヒトの皮膚の刺激剤である。

   ラウリン酸(C12)
実験により催新生物性を示す。

   オレイン酸(C18:1)
ヒトの皮膚の刺激物。


  +------------------------------------------------------------+


 これらの資料から読み取れるのは、
 「14以上の脂肪酸にも刺激がある」ということ。

 炭素数が12までは刺激があることは知られていましたが、
 こんなデータもあったのですね。






 ▼脂肪酸の原料は純度100%?


 ここまで
 脂肪酸、シボウサン......とお話してきましたが。
 実物はこんな姿をしています。

   ↓ ↓ ↓ 

 ☆化粧品の製造に用いられる脂肪酸の原料
  http://hisesshoku-derm.com/archives/2010/04/fattyacid-photo.php


 この原料脂肪酸には、製造過程で
 炭素数の少ない脂肪酸が数パーセント混入してしまいます。

 例えば、ステアリン酸の純度は99.99%ではなく
 炭素数の少ない脂肪酸が数パーセント混入しているのです。

 ですから、お肌の弱い人、接触性過敏症候群の人にとって
 どんな石けん成分も、その洗浄力に加え、
 遊離し、肌や布地に残留した脂肪酸が刺激となっています。



 ところで、先ほどご紹介した
 「炭素数14以上」の刺激性についてのデータについて。

 もしや、試験試料の脂肪酸に
 炭素数の少ないものが混入しているのでは?
 という可能性が頭をよぎりました。

 しかし、
 刺激性の試験に化粧品原料が使われるとは思えません。
 当然、試薬が使われていることでしょう。






 ▼皮膚常在菌と脂肪酸


 さて、ちょっと回り道をしましたが。
 脂肪酸の炭素数について、お話を進めましょう。

 "炭素数の多い脂肪酸も刺激物になりうる"というデータを
 証明するような事例が、私たちの身近なところにあります。

 皮膚常在菌が産生している炭素数の多い脂肪酸で
 脂漏性皮膚炎や脂漏性湿疹を発症させている事例です。


 皮膚常在菌については、2005年に
 第26号~30号のシリーズでお話したことがありましたね。

  +------------------------------------------------------------+

  ☆第26号 『菌』の秘密 ~善玉・悪玉編~
   http://hisesshoku-derm.com/archives/2005/04/26.php

  ☆第27号 『菌』の秘密 ~お肌編~
   http://hisesshoku-derm.com/archives/2005/04/27.php

  ☆第28号 『菌』の秘密 ~殺菌編~
   http://hisesshoku-derm.com/archives/2005/05/28.php

  ☆第29号 『菌』の秘密 ~菌との共存編~
   http://hisesshoku-derm.com/archives/2005/05/29.php

  ☆第30号 『菌』の秘密 ~補足編~
   http://hisesshoku-derm.com/archives/2005/05/30-2.php

  +------------------------------------------------------------+



 皮膚常在菌は皮脂を分解して利用し、ビタミンを産生して、
 これを相互に利用して協力しあい、うまく共生しています。
 そして常在菌以外の菌の増殖を強く抑制・阻止しているのです。


 皮膚常在菌の共生関係を図で示した資料がありますのでご参考に。

  ☆牛嶋彊『人体常在菌-共生と病原菌排除能-』163頁より
   http://hisesshoku-derm.com/archives/2010/04/jozaikin.php



 この図から、皮膚常在菌は皮脂の分解産物として、
 パルミチン酸・ステアリン酸・オレイン酸などの
 皮膚刺激物を産生していることが分かります。


 脂漏性皮膚炎や脂漏性湿疹の原因は
 皮脂の脂肪酸が皮膚に刺激を加えることによる。
 また、malassezia furfurなどのpityrosporum属(脂肪酸産生菌)の
 過剰増殖が症状悪化因子である、と言われています。

 医学では、炭素数の多いパルミチン酸(C16)、
 ステアリン酸(C18)、オレイン酸(C18:1)が
 脂漏性皮膚炎や脂漏性湿疹の原因と言われています。






 ▼菌の世界の精妙なバランス


 「ちょ、ちょっと待ってください、牛田さん!
  "malassezia furfur"とか"pityrosporum属"とか
  難しげなアルファベットをサラッと並べましたけど、
  何て読むんですか??」


 正解は、"マラセチア属""ピチロスポルム属"。
 バックナンバーにも登場していますよ。

  ☆第27号 『菌』の秘密 ~お肌編~
   http://hisesshoku-derm.com/archives/2005/04/27.php



 復習になりますが、
 常在菌のマラセチア属、ピチロスポルム属は
 悪さをする菌ではありません。

 malassezia furfurは、
 でんぷう(マラセチア感染症)の原因菌とも言われています。
 脂肪酸が過剰になるということは、
 脂肪酸を利用する菌が不足した状態とも言えますね。


 それにしても......
 脂肪酸という刺激物質を産生しながら、それを利用し合い、
 悪性菌の増殖を抑制・阻止をしているということ。

 自分の肌の上でも行なわれていることとはいえ、
 そのバランスの精妙さに、改めて驚きを感じます。

 菌は生きています。
 一次刺激性物質との接触は、
 "皮膚常在菌の殺菌"を意味するのです。

 お肌が弱い人、接触性過敏症候群の人が
 お肌を健康に保つためには
 皮膚常在菌のバランスを崩さない生活を心掛けることが大切。
 だから"非接触療法"なのです。






 ▼いかがでしたか? 白木さん。


 「久々にちょっとヘビーな内容でしたね~。
  何十年ぶりに?生物や化学の授業を受けているような気分......」


 前回・今回の2回でまとめるには、
 ちょっと重すぎるテーマだったかもしれませんね。


 「結局のところ、
  炭素数についてどう結論づけたらいいんでしょうか?」


 う~ん、そうですね。

 【脂肪酸は炭素数の多い少ないにかかわらず刺激物である】。
 これが結論と言えそうです。





 
 ▼意外に少ない「脂肪酸」の情報


 「実は最初から気になっていたんですけど、
  なぜ、脂肪酸をテーマに?」


 そもそもの動機は、
 脂肪酸の情報が意外に少なかったことです。

 これまでに牛田があたってきた資料では
 "脂漏性皮膚炎や脂漏性湿疹の原因は脂肪酸の刺激によるもの"
 といった程度の記述しかなく、
 脂肪酸の物性に触れられていませんでした。


 また、測定モニターや読者モニターの事例も
 きっかけとなりました。

 石けん成分やヤシ油など
 油脂由来の界面活性剤(洗濯洗剤)を使用しているモニターは、
 皮膚トラブルがなかなか改善しないのです。

 今回、【脂肪酸は炭素数の多い少ないにかかわらず刺激物である】
 という結論を得たことによって、
 その原因が少し見えてきました。

 これまで、お肌の弱い人に
 AE(ポリオキシエチレンアルキルエーテル)の洗濯洗剤を
 お薦めしてきましたが、その理由も
 脂肪酸にあったのかもしれませんね。


 残る疑問は
 油脂由来の界面活性剤(洗濯洗剤)から
 どのくらい脂肪酸が遊離して布地に残留しているのか?
 ということですが。

 これについては、今後の研究を待ちたいと思います。






 ▼最後に。こんなご報告が届いています


  ┌────────────────────────────
  |【軟水器を使用したら肌が真っ赤に】
  | 
  | 「軟水は石鹸カスが残らない」という情報で
  | 「軟水器」を購入し、洗髪・洗顔・身体洗いをしました。
  | 
  | 軟水器の注意事項には、
  | 「軟水によって皮膚に何も残らない状態が出来る事で
  | 逆に外部刺激が強く現れるようになる事があります」
  | というような事が書いてありました。
  | 
  | それは12月頃の事で、乳液・クリームを止め、
  | 軟水器を導入したら肌が今まで見た事もない程に
  | 顔は赤く腫れ上がり、身体はブツブツと痒みがあり、
  | 夜は熟睡出来ない程でした。
  | 
  | 皮膚が熱を帯び、痒みが酷かったので
  | 約1ヶ月、強制的にメイクが出来なくなりました。
  | 
  |                     (20代・女性)
  └────────────────────────────

 
 "軟水器を使用すると
  石けんカスが残らず、肌にやさしい"

 巷にはこんな情報もありますが、
 軟水器を使ったとしても
 遊離脂肪酸が皮膚に残留することに変わりはありません。


 お肌の強い方は問題ありませんが、
 お肌の弱い人(接触性過敏症候群の人)は、
 注意が必要です。






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