メールマガジン「秘密の皮膚科学」

メールマガジン「秘密の皮膚科学」

2008年09月24日配信

第164号 殺菌すれば安心?『お手洗いに入ったあと......』の秘密

 みなさん、こんにちは。
 コスメプロデューサーの牛田専一郎です。


 最近、みなさんからいただくメールの中に
 【衛生的に問題は】という言葉をよく見かけます。


 「洗うこと=殺菌すること=よいこと」


 という図式に、疑問を抱く人が
 じわじわと、増えてきたような気がしています。

 果たして、殺菌は善なのか!?

 今日はそんなお話しをしたいと思います。


☆------------------------------------------------------------☆

         ―― 殺菌すれば安心? ――

       『お手洗いに入ったあと......』の秘密

☆------------------------------------------------------------☆


 ▼こんなお便りが届きました。

 ┌――┐
 |\/|【トイレのあとは石けんで手を洗うべき?】
 └――――――――――――――――――――――――――――――
 |
 | 牛田さんの教えに従って8ヶ月、
 | 本当に肌の調子がよくなりました。
 | 
 | 顔も体も髪も、石けんは使用していません。
 | 洗濯も柔軟剤は使っていません。
 | 
 | ただひとつ、気になっていることがあるのです。
 | それは「トイレ」と「調理」のあとにも
 | 石けんを使わなくてよいのかどうか? ということです。
 | 
 | 現在、トイレに入ったあと、
 | 私はお湯で手を洗うだけなのですが、
 | 殺菌のために特別にすることはありませんか?
 | 
 | また、調理の際、肉や魚を素手でさわり、
 | そのあとお湯で手を洗うだけで大丈夫なのでしょうか?
 | 
 | それともやはり石鹸、それも殺菌作用のある石鹸を
 | 使用したほうがいいのでしょうか?
 |
 |
 |                  (イギリス・50代・女性)
 | 
 └――――――――――――――――――――――――――――――



 ▼久々に、'菌'の話題


 水中・空中・土壌中・海底...
 菌はいたるところに棲息しています。


 もちろん、人体も例外ではありません。

 腸内には100兆個もの菌が、
 今では400種類ぐらいあるとか。

 皮膚には「表皮ブドウ球菌」「アクネ菌」といった
 【皮膚常在菌】が住んでおり、私たちのお肌を守る役割をしています。


 ......いったい、どうやって守っているのか?
 そう疑問に感じる人もいるかもしれませんね。

 皮膚常在菌が産生する物質は、
 皮脂とともに、皮膚表面を'弱酸性'にする働きをもっているのです。

 「黄色ブドウ球菌」などの悪性の菌は、
 なぜか'アルカリ性'を好み、繁殖します。


 つまり、皮膚表面が'弱酸性'に保たれているあいだは
 悪性の菌に冒されることはない。


 皮膚常在菌は、重要なバリアの役割を果たしているのです。


 [関連バックナンバー]-----------------------------------------
   ☆『菌』の秘密 ~善玉・悪玉編~
     http://hisesshoku-derm.com/archives/2005/04/26.php

   ☆『菌』の秘密 ~お肌編~
     http://hisesshoku-derm.com/archives/2005/04/27.php

    ☆『菌』の秘密 ~菌との共存編~
     http://hisesshoku-derm.com/archives/2005/05/29.php


    -------------------------------------------------------------



 ▼菌の世界の'精妙なバランス'を崩すもの


 ところが......

 石けんを使うと、悪性の菌と一緒に
 皮膚常在菌まで殺菌してしまうのです。

 つまり、石けんを使うという行為は、
 お肌を守ってくれる存在を
 自らの手で追い出すのと同じこと。


 ご質問のメールから少し遠回りをしてしまいましたが、
 トイレのあとも、調理のあとも、
 お湯で手を洗うだけで充分。

 石けんで菌を追い出すことよりも、
 お湯で手を洗い、皮膚常在菌が増殖しやすい環境を
 整えることのほうが大切なんです。




 ▼白木さん、激しくうなずく



 「人体ってホントによくできてますよねぇ~。
  でもね、牛田さん。
  トイレに入ったあとや、お肉や魚を触ったあとの手に
  菌がついていることは事実なんですよね?」


 ええ。
 しかし、先ほどもご説明したように、
 皮膚常在菌が退治してくれますから、
 手に付いただけでは、悪性の菌は増えないんです。

 水やお湯で洗えば、菌そのものは流れ落ちてしまいます。

 でもね。
 これが手から"菌が増える"環境に移ってしまうと要注意。
 例えば食品です。



 「腐敗菌は、どんな条件で増えるんですか?」



 栄養になるものと、増殖できる温度ですね。
 
 条件がそろうと菌は増殖しますので、腐敗していなくても
 口に入れると中毒を起こす人もいます。




 ▼ケガをした手で調理しても大丈夫?



 よく、"手に傷がある人は調理をしないように"
 なんて言いますが。

 切り傷の部分は、皮膚常在菌が増殖しにくく、
 腐敗菌がつきやすい環境になってしまうんです。


 でも、手に傷のあるお母さんが、台所で調理したものを
 食べても問題ないんです。

 付着して時間が経過していないものなら
 菌が増殖していないから。


 なぜなら、体内に入った菌は
 体内の常在菌が退治してくれるからです。

 ただし、増殖したものはNG! ですよ。




 ▼ちなみに、脇や陰部は......??




 「関連する疑問なんですけど、
  お風呂で足の裏や脇、陰部だけは
  絶対に石けんで洗う! って人がいますよね。
  あれもどうなんでしょうか?」



 結論から言えば、
 頭からつま先まで、全身のどの部分を洗うにも
 石けんは必要ありません。

 身体は、"何もつけない"ことを前提にできているもの。


 健康なお肌は、悪性の菌を自ら追い出す力を持っているのですから
 そもそも、日常的に消毒や殺菌をする必要がないのです。

 読者のみなさんはご存知の通り、傷も消毒してはいけませんね。




 ▼最後に、ちょっと医学的なお話を。



 1989年にイギリスのStrachan博士によって提唱された、
 「清潔にしすぎるのは問題があるのではないか」という、
 "衛生仮説"という仮説があります。

 「衛生仮説」「薬剤耐性」「耐性菌」というキーワードで
 検索をしてみてください。
 理解のヒントになると思いますよ。


 例え悪性の菌でも、菌類とのお付き合いは、
 "過剰"ではなく"適切"なものでありたい。

 牛田は、そんなことを考えています。



  ★牛田への感想・コメントがありましたら、
   お気軽にどうぞこちらへ。
  http://hisesshoku-derm.com/archives/01about/info.php




*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-
   ☆メルマガ☆『秘密のプロジェクト』も好評配信中!
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 はげしく稼動中! の『秘密のプロジェクト』。
 最新情報をメルマガでお届けしています。

次号の「秘密のプロジェクト」は9月26日配信予定。
 ご登録はこちらから→< http://jstcd.or.jp/mailmagazines/ >


 ...続きは『秘密のプロジェクト』をお読みくださいね。

メールマガジン「秘密の皮膚科学」

【次のエントリー】
 →第165号 秋だからこそ?『8つのチェックポイント』の秘密

【前のエントリー】
 →第163号 '歯'にも何もつけない?『素朴なギモンに答えます』の秘密

このページのTOPへ