資料室
2007年07月03日
イオン導入法の秘密
イオン導入法とその効果に疑問を感じています。
現在の一般的に使われているローション(導入液)や機種別の各種電流で本当に良い結果が出ているのかどうかと。
果たして、イオン化した成分ならば、何でも導入できるのか?
有効成分だけが導入できるのか?
現場の観察を続けていますが、腑に落ちていないのです。
―イオン導入法について一般的にいわれていること―
イオン導入法とは
イオン導入法はイオントフォレーシスとも呼ばれています。これはギリシャ語で「イオンという電荷をもった化学物質の移動」を意味する言葉です。この言葉の由来からもわかるように、イオン導入法とは有効成分をイオンの形にし、目的部に微弱な電流を流すことによって、有効成分のイオンを皮膚から生体組織内の深部に導入させる方法です。現在、さまざまな治療や、美容法などに用いられています。
薬などを体内に投与する方法は、注射や経口、湿布などがありますが、イオン導入法はこれらと比べて、局所的に十分な有効濃度を、長時間にわたって保持できるという特徴があります。
この方法が誕生したのは19世紀前半。医学分野で、経皮麻酔の方法として開発されました。最初に化学物質が電流によって体内を移動することを証明したのは、ファーブル・パラプラです。彼は1833年に、電流によって皮膚から導入したヨウドが、尿の中に含まれていたことを確認しました。その後、イギリスのルイーズ・トーンやステファン・レデュが研究を重ね、イオン導入法を確立しました。
さて、イオン導入法とは、電流を流すことによって、有効成分をイオンの形で皮膚から導入するといいましたが、どのような原理で導入されるのでしょうか。
人間の体は電気を通す?
人間が手足を動かしたり、ものを考えると、身体に電気現象が現れます。心臓が動く時に発生する電気現象をとらえて図表にするのが心電図であり、筋肉の動きを電気的に図示するのが筋電図、脳の働きを電気的に表すものが脳波です。
これらの電気現象は、何故生じるのでしょうか。それは、人間の体内は電解質で満ちているからです。つまり、身体の組織(体液や、細胞)には、電気的性質を帯びた陽イオンと、陰イオンが存在し、一定の電気現象を生じています。
我々の身体に、陽イオン、陰イオンがあるということは、電子のやり取りを行うことができる、つまり、電圧をかければ、電流が流れるということです。このことから、人体は電気の良導体(電気を良く通す物質)であるといえます。
このように、電気と人体とは密接な関係にあり、電気生理学という学問ができています。
そして、この電気生理学の部類に、一つは、人体の発生する電気現象を究明して、健康診断に役立てようとするもの(脳波や心電図)と、もう一つは、外部から電気刺激を与えて、健康や治療に役立てようというものもあります。後者のように、人体の外から電気を意識的に与えることを通電といい、イオン導入法は通電による、電気的治療法です。
通電するには、人間が電気回路の一部を構成することになります。このことは、人体にその電流の入り口と出口があることを意味しています。この出入り口に相当する所が皮膚であり、イオン導入法において最も重要となる箇所でもあります。
なぜイオンは肌に浸透する?
前述のように、皮膚はいかなる化学物質も角質層より深くは浸透しないようになっています。皮膚の角質層と有棘層の間が電気的バリアーになっているためです。しかし、イオン導入法は化学物質の"電解質"という性質を利用して、このバリアーを通過させることができます。
電解質を水に溶かすと、陰イオン、陽イオンに分かれます。イオンは電荷をもった化学物質ですから、これを電場の中におけば、陰イオンは陽極に、陽イオンは陰極に引っ張られます。一方、陰イオンは陰極から、陽イオンは陽極から、離れようとする性質があります。イオン導入法というのは後者の性質を用いたものです。つまり、人体に入れたいと思う物質をイオンという形にし、その部分に電極を当てることで、体内に押し込むようにするわけです。では、どのようなメカニズムで、イオンは私たちの体内に浸透していくのでしょうか。
イオンが体に浸透していくメカニズム
まず、大前提として、我々の身体が電気を通す良導体であるということを思い出してください。それは、体液や細胞が電解質の水溶液からできているためです。私たちの体にある体液や細胞にはナトリウムやカリウム、カルシウム、マグネシウムなどが陽イオンの形で存在しています。また、塩素、柔炭素、硝酸などは陰イオンの形で存在しています。
例えば、マイナスの電荷をもった陰イオンの化学物質を導入しようとする場合、その水溶液をガーゼなどにしみ込ませ皮膚におきます。その上から陰極をあて、電流を流します。すると、体液中の陽イオンが引きつけられて皮膚内に集中し、陽イオンの濃度が高まります。皮膚内に集まってきた陽イオンは、水溶液中の陰イオン物質を皮膚内に引き込もうとします。また、水溶液中の陰イオンの化学物質も、マイナスの電気を帯びた陰極に反発し、離れようとしているため、容易に皮膚内に引き込まれるのです。
ですから、イオン導入法によって、化学物質を体内に浸透させるためには、導入しようとする化学物質の帯電性を確認し、陽イオンなら陽極下に、陰イオンなら陰極下におく必要があります。
◎以下の図はイオン導入法の原理について簡単に示したものです。
リュジュックの実験
2匹のねずみに直列に電流が流れるように電極をあてます。Aのねずみの方に陽極を置き、この電極に硫酸ストリキニンを浸します。陰極を置いたBのねずみの電極下にはシアンカリを浸します。
両極間に45~50mAの電流を流すと、Aのねずみはテタニ様の痙攣を起こし、Bのねずみはすぐに死んでしまいました。これは陽極下ではプラスに荷電しているストリニキン、陰極下ではマイナスに荷電しているシアンが体内に入ったからと考えられます。
これを確認するために、別の2匹のねずみを使い、同じような条件で電流の流れる方向だけを反対にすると、ねずみは2匹とも異常を示しませんでした。この時にはストリニキン、シアンはそれぞれ、電極のほうに戻されて、ねずみの体内に入らないからであると証明されます。
もう一つの実験にジャガイモの実験があります。ジャガイモの一部を図のようにえぐり、中にヨードカリを入れ、その位置とはるかに離れた位置に電極を挿入し、この間に直流電流をかけます。すると、陽極側から陰極側に電流が流れます。これは電解質に満ちているジャガイモ内のイオンが移動している証拠です。この際に、陽極側の電極の周りが紫色になります。
これは、ヨードカリは電離して、マイナスの電荷を持つヨードイオンとなります。ヨードイオンは陽極側に引っ張られ、マイナス電荷を陽極に与えると再びヨードとなります。そこで、ヨード澱粉反応が起こり紫色になるわけです。すなわち、電流はイオン電流として流れている一つの証拠と言えます。
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